第71話 絶対に、忘れない


温かい空気が流れる宴の中。
朱華とマゼンタと同じ様に、他の候補者達も、契約者との別れを惜しんでいた。

「貴方には迷惑を掛けたわね、アオト。此処まで巻き込むつもりなんて、無かったのだけど」

ぽつりと落とされたアクアの言葉に、蒼斗は小さく笑う。
初めて顔を合わせた時には、そんな言葉を聞く日が来るとは思わなかった。

「いや、良い経験が出来たと思っているよ。それで、君はこれからどうするつもりなんだい?」

ひとつ、問いを投げる。
アクアは小さく微笑みを見せた。
今までに見せていた、クールな表情とは打って変わった穏やかな笑み。

「色々な事に挑戦してみるつもりよ。私らしい目標を、見つけ直すわ」

それは、彼女なりの新しい一歩なのだろう。
使命というものに縛られない、自分の意思で進む一歩。

「そう。頑張って」
「ええ、貴方も。元気で」

そうして互いに握手を交わした。
別れの握手を。



「シラハ……お別れなんて、嫌だよぅ……」

ぽろぽろと涙をこぼすシルクを、白羽は強く抱きしめた。

「私だって、これでお別れなのは寂しいけど、シルクは独りじゃないよ。
大丈夫、いつでも傍に居るから。あたしは、ずっと味方だからね……遠くに居ても、心はシルクの近くにあるから」
「……うん。シラハ、だいすき」

白羽は腕の力を解き、シルクの両肩に手を置いて彼女の瞳を見つめた。
涙に濡れた大きな瞳に、微笑みかける。

「ありがと。私もシルクのこと、大好きだよ」

そう言って、もう一度強く抱き締めた。



「苦労を掛けたな、コッカ。お前に、世界は見えたか?」
「こんなゴタゴタを間近で見せられて、世界も何もありゃしないわよ。
でも……でもね。あたしにだって、誇りがあるんだって気付いた」

そう呟いた黒花は、ゆっくりと語り始めた。

「私には兄が居て、よく比較されてた。何も出来ない自分と、比べてばかりの周りが嫌だった。
だから、あたしは独りになる事を選んだ。でも……それは逃げてただけなんだって気付いた。
自分の意志を持つ事を知った。自分は自分なんだって言える事が、必要なんだって」

それは、黒花が初めて心を吐露した瞬間だった。
全てを言い切った後、黒花は真っ直ぐにシルヴァーを見上げて言う。

「今なら言える。貴方に会えて、良かった…………さよなら」

少しだけ、ほんの少しかもしれないけれど、何かが変わった。
シルヴァーの顔に、穏やかな笑みが乗る。

「あぁ。いつかその日が来るとしたら、また会おう」

こうして、四人は馴染み親しんだ地上に戻っていった。
思い出を、残して。



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