第71話 絶対に、忘れない 温かい空気が流れる宴の中。 朱華とマゼンタと同じ様に、他の候補者達も、契約者との別れを惜しんでいた。 「貴方には迷惑を掛けたわね、アオト。此処まで巻き込むつもりなんて、無かったのだけど」 ぽつりと落とされたアクアの言葉に、蒼斗は小さく笑う。 初めて顔を合わせた時には、そんな言葉を聞く日が来るとは思わなかった。 「いや、良い経験が出来たと思っているよ。それで、君はこれからどうするつもりなんだい?」 ひとつ、問いを投げる。 アクアは小さく微笑みを見せた。 今までに見せていた、クールな表情とは打って変わった穏やかな笑み。 「色々な事に挑戦してみるつもりよ。私らしい目標を、見つけ直すわ」 それは、彼女なりの新しい一歩なのだろう。 使命というものに縛られない、自分の意思で進む一歩。 「そう。頑張って」 「ええ、貴方も。元気で」 そうして互いに握手を交わした。 別れの握手を。 * 「シラハ……お別れなんて、嫌だよぅ……」 ぽろぽろと涙をこぼすシルクを、白羽は強く抱きしめた。 「私だって、これでお別れなのは寂しいけど、シルクは独りじゃないよ。 大丈夫、いつでも傍に居るから。あたしは、ずっと味方だからね……遠くに居ても、心はシルクの近くにあるから」 「……うん。シラハ、だいすき」 白羽は腕の力を解き、シルクの両肩に手を置いて彼女の瞳を見つめた。 涙に濡れた大きな瞳に、微笑みかける。 「ありがと。私もシルクのこと、大好きだよ」 そう言って、もう一度強く抱き締めた。 * 「苦労を掛けたな、コッカ。お前に、世界は見えたか?」 「こんなゴタゴタを間近で見せられて、世界も何もありゃしないわよ。 でも……でもね。あたしにだって、誇りがあるんだって気付いた」 そう呟いた黒花は、ゆっくりと語り始めた。 「私には兄が居て、よく比較されてた。何も出来ない自分と、比べてばかりの周りが嫌だった。 だから、あたしは独りになる事を選んだ。でも……それは逃げてただけなんだって気付いた。 自分の意志を持つ事を知った。自分は自分なんだって言える事が、必要なんだって」 それは、黒花が初めて心を吐露した瞬間だった。 全てを言い切った後、黒花は真っ直ぐにシルヴァーを見上げて言う。 「今なら言える。貴方に会えて、良かった…………さよなら」 少しだけ、ほんの少しかもしれないけれど、何かが変わった。 シルヴァーの顔に、穏やかな笑みが乗る。 「あぁ。いつかその日が来るとしたら、また会おう」 こうして、四人は馴染み親しんだ地上に戻っていった。 思い出を、残して。 |