第68話 闘いは要らない


会議室再度集まった一同は、女神という存在について話し合う事になった。

「現在の女神の存在は、女神となる者のみの意志で成り立っている訳ではない。
天界の意思が、そこに関連しているのが現状だ」
「天界の、意思……?」
「そうだ。だからこそ、女神の力を私的に行使する事が禁じられている」

リスカから、女神という存在の秘密が明かされてゆく。
その場に居た誰もが、次々と語られる事実に言葉を失う。

「ゆえに、その意思が働いている限り、女神は天界に縛られたままだ」
「それを切り離す方法は?」
「女神としての力を天界に返上すること……ね」

紫が、口を開いた。
強硬手段に出ようとしていただけあって、答えも素早い。

「力を返上したら、どうなるんです?」
「女神という役職が消滅するわ」
「女神が消えるという事は……」
「天界を導く存在が居なくなる、という事でもあるわね」

女神の消える世界。
それがどういう意味を持つのか、朱華達には分からない。
その答えが導き出せるのは、おそらく天界に住まう者達だけ。
女神という存在は必要なのか。
その疑問が、落とされる。
難しい顔をして、マゼンタが呟いた。

「今の天界に女神が居る様に、先頭に立つ存在は必要だと思うのよね。
今の女神の在り方が問題だと言うのなら、それを変える事は否定しないけど」
「今の様に、自分を犠牲にして導く事が無い事を前提に……という事か」
「ま、そういう事になるかしら」
「ふむ。方向性としては、悪くないな」

リスカが言う。

「つまり、力を返上する事で今の女神制度は消滅する。
だが新たに先導者を立てる事で『女神』の代わりと為す、という事だな。
どう思う? ――――ヴァイオレット」

ヴァイオレット。
それは、品川紫と名乗っていた少女の本来の名。
友であったリスカだからこそ知っていた、名前だ。
紫――――ヴァイオレットは、頷いた。

「今の女神が消えてなくなるのなら、あたしはそれで構わないわ」
「なら、異論は無いな?」
「ええ、そうね」

静かに、ヴァイオレットが答えた。
リスカがまとめる。

「どの道、私の女神としての寿命は短い。女神の存在意義を変えるだけの力は無いだろう。
次代の女神に、最終的な結論を託すのも悪くは無いかも知れんな」
「では、改めて闘いを行うのですか?」
「闘いはもう必要無いだろう。あれは私のわがままで出来あがったルールだからな。
……いや、やはり闘って貰おうか」
「それでは、何処か場所をお借り出来ますか? 此処で闘う訳にはいきません」
「あぁいや、違うのだ。私の言い方が悪かった。そうだな……お前達四人で、話し合いをしてみるのはどうだろう」
「話し……合い?」

シルクが首をかくん、と傾ける。
リスカは大きく頷いた。

「ああ、そうだ。確かに、私は闘えと言った。だが、拳を交える事だけの闘いと言った覚えは無い。
物理的な力に頼らずとも、精神的に、心を、感情をぶつけあう事も闘いでは無いのか?」
「まぁ確かに、意見のぶつけあいは闘いとも言えるわね」

納得した様に、マゼンタは言う。
こうして四人の間で、討議が行わた。
思いと言う名の闘いの結果、女神となるに相応しい者として選ばれたのは――――。



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