第59話 天界への道


「でも、天界ってどうやって行くんですか?」

天界行きが確定した直後。
不意に発した朱華の疑問に、空気が止まった。

「あー……そうね、根本的な問題を忘れてたわ。
あたし達はちゃちゃっと飛んで行けるんだけどねえ」

困った様に、マゼンタは言う。
どうやら天界とは、人間がそう簡単に行ける場所では無いらしい。
もっとも、そう簡単に行き来出来ては困るのだが。
――――と。

「何かお困りですかー?」

その場の空気に不釣り合いな明るい声が、響いた。
誰もがその声の主を探して、視線を彷徨わせる。
その視点が一箇所に集まった時、そこに居たのは碧だった。
先日も彼に付き添っていたふたりの姿も、同じ様にある。
ただひとつ違っていたのは、彼らの背には真っ白な翼があったという事だけ。

「……あんたたち、誰?」

彼と面識の無いマゼンタが、不審そうに言う。
碧はともかく、天使であるらしいふたりとマゼンタに面識は無い様だ。
他の候補者達の表情からも、同じであろう事が窺えた。

「天使の皆さんと、あと黒花さんでしたっけ。貴方達にお会いするのは初めてですよね。
初めまして。僕の名前は山本碧。どうぞ宜しく」
「……で、あんたらは?」
「私はレイ・スノウサーフェス。審判者として地上に降りた天使よ」
「同じく、俺はダーク・ネイビーアンダー。こいつの相棒な」
「……はぁ」

突然の事に、流石のマゼンタも呆然としている。
しかしこんな状況でも冷静なアクアが、ぽつりと呟く。

「審判者、って……一体何なの? そんな存在、私達は知らないわ」
「知らなくて当たり前よ。私達の存在は極秘中の極秘ですもの」
「その極秘の存在が堂々と姿を見せて良いのかしら?」
「緊急事態である以上、仕方の無い事だと判断したまでよ」
「それで、お前達の言う審判とは何か、説明して貰おうか」
「貴方達。女神候補者達の闘いが公正かを判断する事を判断する、という意味よ。
だから公平な闘いが行われている限り、私達が手を出す事はないわ」
「ふぅん。それで、その審判者ってのがあたしたちに何の用?」

軽くあしらったマゼンタが、率直に問いを投げる。

「あ。むしろ用があるのは僕、かな」

片手を上げた碧が、一歩前に躍り出る。
マゼンタが思いだしたように言った。

「つか、あんたは何者よ」
「あぁそうでした。僕はこのふたりの、形式上の契約者です」
「形式上?」
「ええ。僕は貴方達の様に、力の貸し借りはしてませんからね。
……っと、僕の事はどうでもいいんですよ。皆さんに提案があって、来たんですから」
「提案?」

不審そうな様子の一行に対し、碧は表情を崩す事なく言った。

「契約者の皆さんが天界へ行く方法、お探しなんでしょう?
僕がお役に立てるんじゃないかと思って」
「契約者のあんたに何が出来るっていうのよ」
「出来ますよ。僕、天使以外が天界への行く方法を知ってますから」

その場に居た誰もが、呆然と碧を眺めていた。



BACKTOPNEXT

inserted by FC2 system