第58話 連れてって


唐突に地上へと戻って来た天使達に、契約者達は揃って首を傾げた。

「なにか、あったんですか?」

朱華は問いながら、ライムの姿を見つける。
彼が此処にいるという事は、何かあったのだろうか?

「まぁ、ちょっとね。緊急事態、っていうの?」
「緊急事態?」
「そ。女神様が、行方不明なんですって」
「えぇ!? ソレって、大変なんじゃないんですか!?」
「大変に決まっているじゃない。だから、早急に状況の把握をしなくてはならないのよ」

こんな時でも、アクアは冷静だ。
そんな彼女に苦笑を浮かべつつ、マゼンタは言う。

「ま、そういう訳だから、闘いは一度中断。今のままじゃ、闘ってる場合じゃないしね。
状況が分からないんじゃ手の打ちようも無いし、あたしたちは一度天界に帰る事にしたわ」
「あの、私も! ……私も、連れて行って貰えませんか?」

朱華は、つい叫んでいた。
唐突の事に、マゼンタが目を丸くする。

「シュカ!? あんた何よ、いきなり」
「だって、何か大変なんでしょう?
そりゃあ私に出来る事なんて無いかも知れませんけど、皆さんだけに全て任せてじっとしてるなんて出来ません!」

思いの丈をぶつけると、マゼンタは呆れたように息を吐き出した。

「……まったく、最初は関わるの嫌がってたくせに」
「こうなったら、もう開き直るしかないって悟ったの!
どっかのワガママな天使のお陰で、すっかり意識改革されちゃいましたよ」
「もう、仕方ないわねえ」

言いながらも、マゼンタは何処か嬉しそうで。
あっさりと許可が下りた事に驚きながらも、朱華は安堵した。
それを見ていた白羽も、意を決したように言う。

「私も、良いかな?」
俯いて話を見届けていたシルクが、ぱっと顔を上げる。
その表情には、僅かな驚きと喜びが入り混じっていた。

「約束したもんね、シルクを助けるって」
「うん……だいじょうぶ!」

満面の笑みで、シルクは頷いた。
これで二組が、天界行きを確定させた。
静かに行方を眺めていたアクアが、自らの契約者に視線を向けた。

「アオトは、どうするつもりなの」
「役に立てるかどうかは、未知数だけどね……でも、君が認めてくれるのなら、俺も行きたいとは思うよ。どうかな?」

穏やかな、決意。
それを無理に否定するつもりは、アクアには無い。
アクアは頷いた。

「……仕方が無いわね」
「ありがとう、アクア」

そして残る一組は――――。

「あたしは、行かないわよ。行く訳無いでしょう!?」

先制攻撃、と言わんばかりに否定の意志を強くする黒花。
それに、シルヴァーはひたすら淡々と告げる。

「そういう訳にはいかないな。お前は私の契約者だ。契約した以上、私の目の届く範囲に居て貰わないと困る。
それに……これは私の助言だが。お前は、もっと世界を見るべきだ」
「っ、何なのよ、もう……!」

さらりと言葉を並べ立てられ、そこに反論を挟む隙間は無い。
有無を言わせぬ圧力に、黒花は喚いた。

「ただ行くだけだからね!! 他には何もしないわよ!!」
「それでいい」

こうして、彼ら全員の天界行きが決まった。



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