第57話 来訪者からの報せ


「マゼンタ姉! 大変だよ、大事件なんだってばっ!!」

突如降って来た叫びに、マゼンタは声の主を探った。
向けた視線の先に見知った姿を見つけ、戸惑うと同時に叫ぶ。

「な、ライム!? ちょっと、あんたどうして此処に来るのよ!?」

声の主は、ライムだった。
状況が読めずに眉をひそめるのは、マゼンタだけでは無い。
他の候補者達も、闘いを中断させた存在に戸惑うばかりだ。
慌てた様子のライムは、そんな状況もお構いなしに喚いた。

「細かい話は今どーでも良いんだよ!
なんか大変な事になってるみたいで、慌てて報せに来たんだから」
「大変な事? 何なのよ大袈裟ねえ」

話半分の状態で、マゼンタは邪険に扱う。
ますます必死な様子で、ライムは叫んだ。

「大袈裟じゃないよ!」

いつにないライムの様子に、流石のマゼンタも顔色を変える。
どうやら、本気で何かが起きた可能性が高そうだ。
やっと話を聞く態勢になった事に気付いたのか、ライムはトーンを少し落とした。

「何だか天界の様子がおかしくて、ただ事じゃない感じでさ。
マゼンタ姉に報せるつもりで地上に降りようとしたら……偶然聞いちゃったんだよね」
「聞いた? 一体何を」

眉をひそめて、マゼンタが問う。
ライムは辺りを窺う様にして、そっと呟いた。

「女神が、行方不明だって」

その一言に、その場に居た誰もが息を呑む。
女神が行方不明など、ある筈が無い。
そんな事は、決してあってはならない。

「ちょっと、あんたそれ冗談で言ったらただじゃ済まないわよ!?」
「じょ、冗談な訳ないじゃんか! いくら僕でも、そんな気楽な気持ちでそんな事言わないよ!!」

ライムの様子から察する限りでは、嘘でも冗談でも無いのは確からしい。
この少年がそんな大層な偽りを出来心から口に出来る様な性格とは、流石に思えない。

「……まぁ、話してるのを聞いただけだから、本当かどうかはまだ分からないのは確かだけど」

自分の口にした言葉の重みは承知しているのだろう、ライムはそう補足した。
マゼンタは息を吐きだした。
一度ならず二度までも、闘いが寸断されるとは。
しかしそれが事実ならば、闘っている場合では無いだろう。

「まったく、何がどうなってんのよ……取り敢えず、このまま闘ってる場合じゃないみたいね?」
「不本意ではあるが……どうやらその様だな」

シルヴァーが同意する。
アクアも頷く。

「まずは真偽を確かめる事が先決ね。誤情報であれば、それに越した事は無いもの」
「真偽を確かめる、って言ったってねえ……あの人の事だから、どっか遊びにでも行ってるんじゃないの?」
「な……貴方、それは女神への冒涜だわ!」
「だって事実でしょうよ!?」
「……今はそんな事をしている場合では無いだろう!」

方向性がズレ始めた言い争いに、シルヴァーが一喝する。
口論がぴたりと止んだ。
マゼンタは溜息ひとつ残して、意識を切り替えた。
確かに、無駄な言い争いをしている場合ではない。

「となると、一度天界に帰る必要がありそうね。 とりあえず、下の皆にも伝えておかなきゃ、かしら?」

呟いて、マゼンタは契約者達のもとへ降りる。
他の三人も、それに続いた。



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