第56話 二度目の闘い


取り決められた日。
再びあの洋館を舞台に、二度目の闘いが始まろうとしていた。
女神候補者四名が、同じ土俵に立つのはこれが初めての事だ。
そして契約者達の方にも、初めての事があった。
今まで謎のままであった、シルヴァーの契約者の姿だ。
彼女は朱華達の輪から距離を取った位置で、様子を静観している様だ。

「えっと、確か黒花ちゃん……だったよね?」

うろ覚えに耳にした彼女の名前を反芻して、朱華は尋ねる。
しかし、少女はこちらを見ようともせず口を開く。

「他の天使の契約者は敵も同然。貴方達と慣れ合うつもりなんて、これぽっちも無いから」
「えーっと……うん、どうしよう……」

そのスタンスに、朱華は戸惑う事しか出来なかった。
一方黒花は表面上では冷静を取り繕っていたが、胸の内は激しい動揺で揺さぶられていた。

『なんであたしが、こんな所に来なきゃならないのよ……!』

そう、心の中で叫んでいた。



地上でそんな遣り取りがあった頃、女神候補の天使達は闘いに身を投じていた。
力の差がハッキリと見て取れる程だった前回に比べ、今はほぼ対等とも取れる遣り取りだ。
放った攻撃は、身軽な動作でひらりとかわされる。
シルヴァーは片眉を上げた。

「……何があったかは知らんが、少しは力の使い方を理解したと言う事か」
「あたし達だって、簡単にやられるつもりはないって事よ。
ま、言ってみれば気の持ち様よね」

不敵とも言える笑みと共に、マゼンタが答える。
シルヴァーは彼女の背後に控える様にしているシルクに視線を向けた。
その視線に気付いたシルクが、びくりと肩を震わせる。

「どうやら、サポートが付いただけの問題でもなさそうだな」
「あうっ、あの、その…………ごめんなさい」

ぽつりと漏らした呟きに、シルクが過剰に反応する。
反射的に零れた謝罪の言葉に、アクアが呆れた顔で息を吐いた。

「貴方が謝る必要は無いでしょう?」
「あのっ、でもっ…………ごめんなさい……」

ハッとしたシルクが弁明しようとしたが、結局出て来たのは再び謝罪の言葉だった。
アクアの溜息が、一層深くなる。

「……もういいわ」

それだけ何とか絞り出して、アクアはそれ以上の言葉を制した。
場の空気が緩んだ所に、マゼンタは疑問を放り投げた。

「あんた、どうしてそこまで女神にこだわるのよ。
あんた程の力があれば、女神じゃ無くても充分に優遇されてやっていける筈だと思うけど?」

以前にも投げかけた、問い。
あの時は、それに明確な答えが返る事は無かった。
今度も、彼女の本音を知る事は出来ないかも知れない。
けれど。
訊かなければならない様な気が、していた。

「言った筈だ。私には、女神の椅子が必要なのだと。女神以外では、意味が無い」
「あんた――――」

静かに、シルヴァーは呟く。
マゼンタが口を開きかけたその時、突然の訪問者の声が響き渡った。



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