第55話 再戦へ向けて


その知らせは、不意に届いた。
女神候補者のひとり、シルヴァー・ノースアースからの連絡。
それは、先日中断された闘いの再戦を要求する物だった。

「向こうの調子は万全、って所なんでしょうねえ」

呑気な調子を崩さずに、マゼンタは言う。
そんな様子で良いのだろうかと、朱華の方が心配になるくらいだ。
以前の闘いの時は、明らかな力の差が明らかになっただけ。
それから、大した時間は経っていない。
シルヴァーが調子を取り戻したと言うのなら、こちらに勝ち目があるかは怪しい所だろう。

「勝算、あるんですか?」

もはや当たり前の様に同席している白羽が、問う。
彼女も同じ事を考えていたに違いない。
しかしマゼンタは迷わず首を傾げた。

「さぁ?」
「さぁ、って……」

気楽にも程がある。
朱華は、思わず溜息をついた。

「闘う前から負ける事を想定してちゃ、その時点で負けでしょ?
つまりは、何事もやってみなきゃ分からないって事よ」

もっともらしい事を言って、マゼンタはふんぞり返る。
これだけ図太い神経をしているのなら、心配するだけ損なのかも知れない。
その様子をもじもじとしながら黙って見ていたシルクが、不意に口を開いた。

「わ……わたしも、い、いっしょに、たたかう……!」
「シルク!? 無理、しなくていいんだよ!?」

これには白羽も予想外だった様で、慌てている。
けれどシルクは、ぶんぶんと首を振った。

「だいじょうぶ。わたしも、みんなの役に立ちたい。だから、がんばるの」

ぽつりぽつりと落とされるシルクの呟きが、彼女の意志の強さを伝える。
その覚悟が本物である事を悟ったマゼンタが、柔らかく頷いた。

「オッケー、シルク、サポートは頼んだわよ?」
「…………うんっ!」

ぱあっと表情を明るくさせて、シルクは頷く。
こうして、再戦に臨む意思がゆっくりと固められていった。



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