第51話 どうしたらいいの


「コッカ。尋ねたい事がある」
何の前触れも無く黒花の部屋を訪ねたシルヴァーは、何の前置きも無くそう言った。
布団から出て普段と変わらぬ様子に戻った黒花だったが、対応はあの時のまま。
ちらりと一瞬シルヴァーの姿を盗み見た切り、視線を合わせる事無く言い放つ。

「言ったでしょう。話す事なんか無いわ。あたしなんかに構ってないで、さっさと闘いに勝って帰ったらどう?」

しかしシルヴァーは欠片も気にも留めず、表情も変わらない。
初めて会った時から、そうだ。
こちらが何を言おうと、どう反応を返そうと、彼女はいつだって同じ。

「勝つ為には話し合いが必要だ。私に消えて欲しいと思うのなら、話して貰わねばならん」
「話す? 何を」

意味が分からない。
尋ねると、シルヴァーはやはり表情ひとつ変えずに説明を始めた。
淡々としたその姿に、黒花は奇妙な感覚を覚える。

「コッカ、お前の事についてだ。今の私の力はおそらく、お前の精神力で保っていると考えられる。
お前が平常心でいれば私は通常通りの力を発揮出来、動揺を激しくすれば、私の力も分散される。
先刻の闘いで、私の力が急激に弱まった。何かが、あったのではないか?」
「何も無いわよ。自分の落ち度をあたしのせいにしないで」

長ったらしい解説を、黒花は切り捨てた。
気にかかる言葉は、聞かなかった事にして。

「では何故態度を変える? 以前はもっと協力的だったと思うが。
他の契約者達は、暇さえあれば候補者と行動を共にしている様だな。我々とは大違いだ」

何気なく発せられたその一言が、黒花の心を揺さぶる。
呼び起こされる、記憶。
その思い出を消し去る様に、気付けば叫んでいた。

「うるさいわね! 私がどうしようと私の勝手でしょう!? 他人と比較して何が楽しいのよ!!」

取り乱す黒花の様子を、シルヴァーは何かを思案する様な顔で眺めていた。
しかしその叫びには応える事もなく、自身の思いを言葉に乗せる。

「……そうだな。ただ一言だけ言わせて貰おう。コッカ、お前には誇りがあるか?
私にはある。自分が自分であること、自分の目的に全力を尽くす事、それが私の信念であり、誇りだ」

まっすぐに発せられた、揺らぎの無い信念の籠った言葉。それは、黒花の胸に何かを落としてゆく。
けれど、それには気付かない振りをした。

「誇り……そんなもの、無くたって困らないじゃない」
「確かにな。だが、誇りは自分が自分である証だ。お前に誇りが見えないのは、自分が見えていないからではないか?
自分という存在は、他人と触れて初めて分かる物だ。だから今のお前には誇りも戻らないのだろう」
「何が言いたいのよ、あんた」
「私が勝利を掴む為には、お前に自分自身を見つけて誇りを持って貰う必要がありそうだ。
故に、今後の闘いには、お前にも同行して貰う。これ以上、見えぬ所で不利な働きをされる訳にもいかないのでな」

さらりと発せられた言葉に、黒花はぎょっとした。

「冗談でしょう、絶対行かないわよ!」

咄嗟に反発の意志を表したものの、それに対してシルヴァーは何も答えないまま。
念を押す様に一言、再度来る事だけを呟いて、飛び去って行く。
有無を言わせない空気に、黒花は取り残される。

「訳が分かんないわよ……何であたしが、こんな目に……」

静寂に包まれた部屋の中に、その呟きだけが残った。



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