第48話 完全なる敗北


「一体何だったのよ」

戸惑いの残る声で、マゼンタは呟いた。
その横に降り立ったアクアが、涼しい顔をして言う。

「とりあえず、一時中断という形になるでしょうね。引き分け、って所かしら」
「何言ってんの。結果的にはそうかもしれないけど、どう見たってこれは完全なる敗北よ」
「……私は、負けただなんて思っていないわ」
「それを、ただの強がりって言うのよ」
「な……馬鹿な事を言わないで!」

顔を真っ赤にしたアクアが、叫ぶ。
その様子から察するに、半ば自覚はあるのだろう。

「ま、今のが負けに程近い結果だったとしても、中断されたんだから確定にはならないでしょ」
「なら、引き分けって事じゃない」
「あんたねえ……どこまで強情なのよ」

どうしても負けを認めないアクアに、マゼンタも苦笑するしかない。
だが、こうして議論している場合では無い。
ふたりとも、無傷という訳では無いのだから。

「とにかく! 今此処で何を言っても無意味ね。とりあえず、皆の所に戻りましょう。下、居るみたいだし」
「……分かったわ」

アクアはしぶしぶ頷いた。



心地良い風が吹く。
その波に髪をなびかせて、少女がひとり佇んでいた。
口元には、穏やかな笑み。
その口端が時折、楽しそうに引き上げられる。
背後から近づく小さな足音に気付き、彼女は視線を背後に送る。

「いらっしゃい」

少女は笑って訪問者を迎え入れた。

「観察ですか? 結末なんて、興味無いと思ってましたけど」
「あら、そうでもないわよ。折角の機会なんだもの、見ておかないと損じゃない」
「そういうモンですかねえ」
「そうよ。だって、その方が何だか楽しそうじゃない?」
「楽しそう、って……本気で言ってるんですか?」
「さあねえ」

呆れた様な問いを、少女は軽口で誤魔化した。
本心を、知られる訳にはいかない――――誰にも、絶対に。

「それより邪魔、してくれるんじゃなかったのかしら?」
「ええ。しますよ、もちろん。貴方が動けば」
「……そう。それは楽しみだわ。きっと、無駄だと思うけれど」
「やってみないと分からないじゃないでしょう」
「それは、どうかしら? 貴方に私は、止められない」

含みのある物言いをして、歩き出す。

「もう用事は終わったから、帰るわ。また、会いましょう」

何か言いたそうな彼を残して、一方的にその場を立ち去る。
しかし、言葉が寄せられる事は無かった。
歩きながら、少女はこの先の事を思って天を仰ぐ。

「……もうすぐ、あたしの願いは叶うのね」

歌う様に呟かれた声が、空気に溶けて消えた。



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