第48話 完全なる敗北 「一体何だったのよ」 戸惑いの残る声で、マゼンタは呟いた。 その横に降り立ったアクアが、涼しい顔をして言う。 「とりあえず、一時中断という形になるでしょうね。引き分け、って所かしら」 「何言ってんの。結果的にはそうかもしれないけど、どう見たってこれは完全なる敗北よ」 「……私は、負けただなんて思っていないわ」 「それを、ただの強がりって言うのよ」 「な……馬鹿な事を言わないで!」 顔を真っ赤にしたアクアが、叫ぶ。 その様子から察するに、半ば自覚はあるのだろう。 「ま、今のが負けに程近い結果だったとしても、中断されたんだから確定にはならないでしょ」 「なら、引き分けって事じゃない」 「あんたねえ……どこまで強情なのよ」 どうしても負けを認めないアクアに、マゼンタも苦笑するしかない。 だが、こうして議論している場合では無い。 ふたりとも、無傷という訳では無いのだから。 「とにかく! 今此処で何を言っても無意味ね。とりあえず、皆の所に戻りましょう。下、居るみたいだし」 「……分かったわ」 アクアはしぶしぶ頷いた。 * 心地良い風が吹く。 その波に髪をなびかせて、少女がひとり佇んでいた。 口元には、穏やかな笑み。 その口端が時折、楽しそうに引き上げられる。 背後から近づく小さな足音に気付き、彼女は視線を背後に送る。 「いらっしゃい」 少女は笑って訪問者を迎え入れた。 「観察ですか? 結末なんて、興味無いと思ってましたけど」 「あら、そうでもないわよ。折角の機会なんだもの、見ておかないと損じゃない」 「そういうモンですかねえ」 「そうよ。だって、その方が何だか楽しそうじゃない?」 「楽しそう、って……本気で言ってるんですか?」 「さあねえ」 呆れた様な問いを、少女は軽口で誤魔化した。 本心を、知られる訳にはいかない――――誰にも、絶対に。 「それより邪魔、してくれるんじゃなかったのかしら?」 「ええ。しますよ、もちろん。貴方が動けば」 「……そう。それは楽しみだわ。きっと、無駄だと思うけれど」 「やってみないと分からないじゃないでしょう」 「それは、どうかしら? 貴方に私は、止められない」 含みのある物言いをして、歩き出す。 「もう用事は終わったから、帰るわ。また、会いましょう」 何か言いたそうな彼を残して、一方的にその場を立ち去る。 しかし、言葉が寄せられる事は無かった。 歩きながら、少女はこの先の事を思って天を仰ぐ。 「……もうすぐ、あたしの願いは叶うのね」 歌う様に呟かれた声が、空気に溶けて消えた。 |