第46話 実力の差


不可思議な訪問者に契約者一行が戸惑いを覚えている頃。
女神候補者達の姿は既に、館の上空にあった。
これから闘うというのに、流石に室内に止まる訳にはいかないからだ。
大地から形作った剣を片手に、シルヴァーは二対一に近い構図をものともしない余裕を見せていた。
マゼンタが何度か放った炎の塊は、いとも容易く薙ぎ払われる。
アクアの攻撃も、まったく同じだ。
それは演習でもしているかの様で、その事実が腹立たしい。
理解はしていた筈だ――――一筋縄ではいかない相手であると。
しかし実際に身をもって体験すると、その事実が無性にもどかしく思えて来る。
彼女は正式に天使となる以前から、誰よりも先を進んでいた。
その才能は、天才とさえ称された事もある程だ。
その彼女と自分達が同じフィールドに立っている事自体、おかしい。
普通に考えれば勝敗は明確なものを、一体何故このメンバーを選出したのか。
それが、最大の疑問だった。
女神の椅子に興味の無いマゼンタと、闘いを拒むシルクが選ばれた事も不自然。
そもそも、通常ならばシルヴァーに席を譲るだろう。
全体的に何かが不安定だが、しかし。

(今考えた所で答えは出ない、って事よね……)

無駄な考えを捨てて、今はどうやってシルヴァーに挑むかに集中しなければ。
彼女の繰り出す攻撃を何とか避けながら、マゼンタは考える。
しかし、いかんせん力の差がありすぎる。
それを埋める何かさえあれば。
考えてはみるものの、何も浮かんで来ない。
焦りこそ無いが、進展の無い現状に軽い苛立ちは覚える。
――――と。

「……っ、マゼンタ……!」

悲鳴の様なアクアの声に反応した時には遅かった。
気付けば、マゼンタは館の屋根に身体をしたたかに打ちつけていた。
シルヴァーの攻撃をまともに食らったのだと気付くまでに、少しばかり時間を要した。

「まったく……これが、実力の差、ってわけ?」

ぽつりと漏らした呟きに、返る声は無かった。



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