第45話 訪問者


洋館の門をくぐった朱華達は、広々とした庭に居た。
ついさっき、頭上を飛んで行ったアクアに続いてやって来た蒼斗も一緒だ。
結局、顔見知りである三人の契約者が揃った形になる。
女神候補者であるシルクも、一緒に居るが。
館の中には、恐らくマゼンタとアクア、そしてシルヴァーの三人が居るのだろう。
と、なると、気になるのは四人目の契約者の事だ。

「もうひとりの契約者、見当たりませんね……」
「まぁ、この場に来る事を必須としている訳ではないからね」
「どんな人なのか、ちょっと見てみたかったなぁ」

闘いに直接の関係が無いからだろうか、三人の会話は呑気なものだ。
女神の座を巡る闘いが始まるとは思えない程に、平和的である。
と、そこへ。

「皆さんお揃いで、丁度良かった。ま、ひとり足りないけど」

不意に現れた人物に、全員の視線が一方に向いた。
同時に、シルクは白羽の後ろに隠れる。
視線の先には、少年が居た。
歳は朱華達とそう変わらない様子の、何処にでも居る様な普通の少年。
それがこの場に現れたという事は。

「もしかして、貴方が」
「四人目の契約者……?」

全員の集中的な視線を浴びて、少年が苦笑する。

「えーっと、なんか誤解してる様ですけど、僕は皆さんの思ってる様な立場じゃないですよ?」

その言葉に、驚いたのは朱華達の方だ。
契約者でも無い少年が、どうしてこのタイミングで此処に現れるのだろう。
それに彼は、こちらに用がある様な口振りではなかっただろうか?
そして良く見れば、彼の後ろには女性と青年の姿もある。
一体どういう事なのか、そう疑問が浮かぶのも仕方が無い事だろう。
それを察したのか、少年が説明する。

「僕は契約者じゃありませんけど……そうだな、関係者、って所ですかね」
「関係者?」
「そう。今後もしかしたら皆さんのお世話になったりする事があるかも知れないので、ご挨拶も兼ねて来た訳です。
あ。言っておきますけど、僕は中立な立場ですから、手出し口出ししませんよ?
第三者の立場で見守らせて頂きますし、邪魔をするとかそういうんじゃないので、安心して下さいね。
……ま、何も無く事が進めば、ですけど」
「それは、君にとって不都合な状況に陥った場合は、手出しもあり得るという解釈で良いのかな」

静かに問う蒼斗の言葉に、少年は困った様に眉をひそめた。

「……まぁ、それは状況次第ですね。僕としては何事も平穏にいきたいので。
僕にとって、もちろん皆さんにとっても、何も起きないのが一番でしょう?」
「それは、確かにね」
「今、皆さんにお話しできる情報が少なすぎるので、僕の存在が疑わしいと思います。
胡散臭いと思うなら、それでも構いません。ただ、僕と言う存在が居る事を認識して頂ければ充分です。
もしかしたら、逆に皆さんを僕が助ける事だって出来るかも知れませんから」

そう言葉を並べ立てたかと思うと、少年は気付いた様に名乗った。
大仰に、お辞儀さえしてみせて。

「そうそう、自己紹介忘れてた。僕は、山本碧。どうぞお見知りおきを」

つられるように、朱華達も全員が名乗る。
それを頷きながら聞いていた碧は、全員から紹介を受けると納得した様な表情を見せた。

「なるほど……ご丁寧にどうも。それじゃあ、今日の所は帰ります。じゃあ、また」

軽い挨拶を残し、三人は去って行った。
突然の行動に呆然としてしまい、誰も彼を止める事すら出来ない。

「なんだったの、今の……」

その呟きに、返る声はなかった。



「なぁ、今のって結局何だったんだ?」

帰り道、不思議そうな顔でダークが問う。
今回ばかりはレイも同感の様で、碧の返答を興味深そうに待っている。
碧は、そんなふたりを見て笑う。

「見ての通り、挨拶だよ。互いに顔を知っていた方が、今後何かと便利かと思って」
「便利、って……一体何のよ?」
「ゲームを邪魔するって約束、してたからね」
「それと女神候補者達の闘いと、一体どういう関係があるって言うの!?
この闘いを壊す事が目的と言うのなら、私が許さないわよ」
「心配しなくても、大丈夫。僕だって、神聖な闘いを汚す真似はしないさ」
「なら、良いのだけど……でも貴方、一体何が目的なの?」

不審げなレイの問いに、碧はただ微笑むばかりだ。

「君達が審判者としての役割を遂行している様に、僕にだってやるべき事があるってだけだよ」
「ふぅん。ま、変な事にさえならなきゃ俺は何でも良いけどな」
「……そんな軽い判断で済ませていいものかしら」
「さぁね。何かあったら、その時に考えたって遅くはねえと思うぞ」
「ダークの言う通りだね。今は何も無い訳だし、仲良くいこうよ。ね?」
「…………本当に大丈夫なのかしら。心配だわ」

ふたりに丸めこまれる形で、しぶしぶレイは頷いた。
少しずつ、物語は進んでいく。



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