第44話 再会


一歩足を踏み出せば、こつりと音が響く。
館の中の空気はひんやりと冷たい。
自身の中にある確信を頼りに、マゼンタは先へ進んでいく。
ひとつの部屋の前で立ち止まり、意を決して扉を開いた。
広々とした空間の中、開け放たれた窓の傍に、彼女は居た。
銀色の長い髪を風に遊ばせ、凛とした空気を纏って。
最後にその姿を見たのはいつの事だっただろう。
女神候補者として選ばれたあの日が、やけに遠く感じた。

「……久しぶりだな」

彼女が、言った。
相変わらず、聞き方によっては冷たく感じる声だ。

「ホントにね。ま、候補者に選ばれて以来だから、厳密に言うとそれほどでも無いんだけど」

軽口を叩いて返す。
真面目な返答など、堅苦しくてやってられない。

「此処まで、結構長かったわね。闘いに踏み切るのを躊躇ってた訳では無いでしょ?」
「無論だ。女神の座は闘って勝ち取るべき物だろう」
「じゃ、闘いを始めるってのね。でも、あたしたちふたりしか居ないけど?」

言って、マゼンタは辺りを見回す。
部屋の中にはマゼンタと、そしてシルヴァーのふたりしか居ない。
残りのふたりの姿は見えないのだ。
もっとも、全員同時に闘えという決まりがある訳では無いのだが。

「……呼んだかしら?」

透き通るような声が響いて、アクアが姿を現した。
彼女も気配を感じて此処まで辿り着いて来たのだろう。

「これで女神候補者が三人、という訳か」
「まぁ、シルクの事は良いんじゃないの? あのコの意思はあんたも知ってるでしょ」
「シルクなら、下に居るわよ」
「え、ちょっと、あのコ来てるの!?」

アクアの言葉に、マゼンタは声を上げた。
闘う事を拒むシルクが、あえて此処まで来る事を選んだとは驚きだ。

「此処へ来る途中に会ったわ。契約者と一緒だったみたいだけど」
「そう。なら少しは安心かしら」

呟いて、マゼンタはシルヴァーに向き直る。

「一応話しておくけど、あたしとアクアは休戦してるのよね。
互いに手は貸さないけど闘う事もしない、だから自然と一対二の構図になるわよ」
「そんなこと、些細な問題だ」
「……勝つ自信がある、って訳ね」

さらりと返って来た言葉に、マゼンタは僅かに顔を強張らせた。
表情を変えないまま、シルヴァーは口を開く。

「言っておくが、遠慮はしない。女神の椅子の為、全力でいかせて貰う」
「私だって、そのつもりだわ」
「……不本意なんだけどねぇ、あたしは」

シルヴァーの宣言を、アクアは真正面から受け止める。
その横で、マゼンタは他人事のように呟くだけ。

――――こうして、闘いの幕は上がった。



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