第43話 闘いの場


いつもと何も変わらない時間の流れ。
平穏な空気が流れる部屋の中で、不意にマゼンタが呟いた。

「――――来る」
「え?」

聞き返した時には既に、マゼンタは窓枠に足を掛けていた。
朱華は慌てる。

「ちょ、マゼンタさん!? 何処行くんですか!」
「上よ、上! 上に決まってるでしょ!!」
「う、上……」

迷いの無い返事に、朱華は呆然する。
その間に、マゼンタは窓から飛び立っていった。
その様子は、どことなく焦りを感じるモノで。
何となく、その原因を悟った。

「……まさか」

呟いて、朱華は家を飛び出した。
上空を飛んでいく姿を目で追いながら、朱華は走る。
マゼンタの姿は、人のあまり寄りつかない街外れの洋館に消えていった。
住人の居ない、廃墟となっている場所だ。
人々の中では、時々幽霊を見たとかいう噂があがっているらしい。
それを思い出して、朱華は身震いした。
――――ただの噂、だと信じたいのだけど。

「朱華ちゃん?」
「うひゃぁあっ!?」

不意に声がして、朱華は叫んだ。
反射的に振り向くと、其処には白羽と、そしてシルクの姿。

「ふたりが此処に居るって事は、もしかして……」
「うん、シルクが此処に連れて来て欲しい、って」
「じゃあ、此処が」
「闘いの場って事、なのかな」

同じ結論に達して、ふたりは黙りこむ。
白羽の服の裾を掴むシルクの、手の力が強まった。

「それが本当なら、蒼斗さんも此処に来る可能性があるよね」
「それから、最後の契約者も」

全員がこの場に顔を合わせる事になるのかも知れない。
女神候補者達の闘いの場に、契約者達が同席する決まりは無い。
しかし契約を交わしている以上、気にはなる物である。
だからこそ、朱華はマゼンタの姿を追いかけて来たのだ。

「……とりあえず、入ってみる?」

白羽の提案に、朱華は恐る恐る頷いた。
これが本当の始まりなのだ。
今まで平穏に過ごして来たせいで、闘いの実感が湧かなかったけれど。
確かに、闘いが始まろうとしている。
朱華自身は、ある意味では完全な部外者だ。
けれど、また違う意味では片足を突っ込んでいる。
その結末は、予想なんかつかないけれど。
それを、きっと見守らなければならないのだろう。

「じゃ、行こう」

互いに頷きあって、屋敷の門をくぐった。



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