第42話 見守る者たち


「さて、と……ちょっくら行ってみようかな」

ぽつりと呟かれた言葉に、白い羽を背に広げた女性は目を見張った。
のんびりとした動作で準備を始めたらしい少年に、慌てて声を掛ける。

「ちょっと、行くって何処へ!?」
「んー? 新たな女神が生まれる場所?」
「な……笑えない冗談は止めてちょうだい!! 私達の存在は極秘中の極秘なのよ!?」

叫んだ声は、悲鳴にも似ていた。

「次期女神となる者達の闘いが公平に行われているか、それを見届けるのが私達の役目のはずよ。
それが自ら接触を図るなんて言語道断だわ!」

必死の訴えも虚しく、少年は何処吹く風。
気にも留めていないと言った素振りで、ただ微笑むばかりだ。

「そうは言うけど、僕はあくまでも中立な立場だからねえ。
見届けるのは君達の役目。そこに僕はカウントされていないハズだけど?」
「そ……っ、それはそうかも知れないけれど……!」

思わず、言葉に詰まる。
彼の言う事は間違っていないのだ。
一連の事の運びを傍観し、そうして問題無く進行しているかを判断する事が役目。
自分と――――そして、今この状況さえも気楽に静観している奴のふたりに与えられた、使命。
確かに、そこに彼は含まれていない。

「ま、何もしないで良い任務なんて、楽以外の何物でもないけどな」

今まで黙っていた青年が、不意にぽつりと呟いた。
こちらの会話になど興味が無いと思っていたが、違うようだ。
それよりも、言葉の中身の方が問題だろう。

「ちょっとあんた、不謹慎にも程があるんじゃないの!?」
「でも、確かにねえ」
「碧、貴方までそんなことを……!」

同意の声に、頭痛を覚えた。
どうしてこうも、ふたり揃って気楽過ぎる考えなのか。
碧、と呼ばれた少年は笑って言う。

「だって本当の事じゃない?」
「でも、それじゃあ無能みたいな言い方じゃない! 私だって、ただ見ている訳じゃないわ!!」
「もちろん、それは分かってるよ。ちょっとからかっただけ」
「……なら、良いけど……」

――――この、人をすぐにからかう癖は何とかならないのだろうか。
思って、人知れず溜息を吐く。
その心境を知ってか知らずか、碧はさらりと言ってのけた。

「とにかく、僕は行くよ。止めても無駄、だからね」

返事を待たずに、さっさと準備を終える。
もう何を言っても無駄なのだろう。

「よし、じゃあ言ってみようかな。ダークは一緒に行くよね?」
「もちろん! 何か楽しそうだしな!!」

一切の迷いが見えない即答に、頭を抱えた。
――――コイツには、審判者としての自覚があるのだろうか?
その考えが伝わったのか、ダークが少々不満そうな顔をする。

「何だよ、審判者の件は言わなければ問題無いだろ?」
「まったく……そういう問題じゃないわよ」
「でも間違って無いよ。だって、僕達の存在を彼らは知らないんだからさ」

そう言いきって、にこやかに碧は問う。

「……で、レイはどうする?」

返答に、一瞬迷った。
自ら進んで危険を冒すのは気乗りしないが、一緒に居れば止める事も可能と言う利点がある。
自分の知らない所で危ない橋を渡られるより、何倍もマシだ。

「……もう、どうなっても知らないんだから!」

諦めの溜息を漏らして、後を追う。
勢い良く音を立てて、ドアが閉まった。



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