第36話 ひとまずの休息


「えええぇっ!? 休戦許可を貰ったぁ!?」

戻って来たシルクから話を聞いた白羽は、素っ頓狂な声を上げた。
その大声に驚いたシルクが、身を竦めつつもうなずく。

「ありがたい事ではあるけど……まさかこんなにあっさりと納得して貰えるなんてねえ」

思わず漏れたつぶやきは、白羽の本音だった。
そもそも駄目もとの交渉ではあったが、予測としては断られて当たり前だと思っていたのだ。
彼女がどういう意図でうなずいたのかは分からないが、この対応は意外だった。
自分から交渉を仕掛けておいて意外というのは、おかしいのかも知れないが。

「白羽ちゃん! どうかした?」

白羽の叫びに気付いたのだろう、朱華がぱたぱたと駆け寄って来る。
その後ろから、ゆっくりとマゼンタも歩いて来る。
驚きのあまりとは言え、大声を上げてしまった事に苦笑しながら、白羽は状況を説明した。
内容を把握した朱華はやはり驚いたようで、呆然と口を開けているばかりだ。

「あの子が、ねえ……ふぅん」

マゼンタにとっても予想外の展開だったらしく、珍しそうだ。

「ま、あの子がどういうつもりなのかは分からないけど、良いんじゃない?
味方では無いにしても、あたし達の邪魔はしないって言ってるんだから」
「そうですね」
「この結果がどういった事になるのか分からないけど、まぁ何かが起きた時はその時よ」
「随分気楽な考えですね……そんなんで大丈夫なんですか?」

自由すぎる発言に、朱華が呆れたように言う。
マゼンタは軽く手を振って答える。

「平気よ、たぶんね」
「たぶん、って……そんな」
「あまりアレコレ考えすぎるのも毒だと思わない?
たまには息抜きも必要なモノだし、遊べる時に遊んでおかないと後悔するしね。
……という訳で今は余計な事は考えずに遊びまくるわよー!」
「えぇええっ!?」

戸惑う朱華をよそに、マゼンタはまた海に向かって全力疾走だ。
その後ろ姿を見送って、朱華は溜息を吐く。

「ホント、大丈夫なのかなアレで」
「言ってる事は一応間違いでも無いし、良いんじゃない?」

笑いながら、白羽は言う。
それでも腑に落ちない様子だった朱華は、諦める事にしたようだ。

「……まぁ、いっか」
「そうそう。今は満喫しよう?」
「うん、そうだね」
「じゃ、私達も行こうか。
折角来たからには、少しくらいは海を実感しないとね!」

その一言に過剰反応したシルクが、白羽の腕にぎゅっと掴まる。
それを見て、白羽は笑った。

「大丈夫、奥にはいかないし、それに私がちゃんとシルクについているから。
だから、ね?」
「……………………うん」

迷いながらも小さく頷いたシルクに微笑みかけると、白羽は立ち上がる。
晴れた上空では、太陽が燦々と輝いていた。



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