第35話 水と風


潮を含んだ風が、ふわりと駆け抜ける。
シルクはアクアに連れられるがまま、皆から離れた場所まで来ていた。
頼れる者が誰も傍に居ない状況に、不安は膨らむばかりだ。
その挙動不審とも言える様子に、アクアは溜息まじりに言う。

「別に此処で闘おうなんて思ってる訳じゃないし、そんなに心配する事は無いわ」
「……………………うん」

うなずいてみるものの落ち着けるはずもなく、シルクは俯く。
それに小さく息を吐き出して、アクアは口火を切った。

「貴方、マゼンタと協力関係を結んだんですってね」
「…………うん」
「それで、私にも協力するようアオトに持ちかけたってわけ?」
「……………………うん」
「貴方の考える事は分からないでもないわ。
確かにシルヴァーは私達より遥かに実力がある……でもね」

アクアの目が細められる。
シルクは身を強張らせた。

「悪いけど、協力するつもりは無いわ」

きっぱりと、アクアは宣言する。
完全なる否定の声に、シルクは眉尻を下げた。
あからさまな落ち込み様に、アクアは呆れたように言う。

「但し、シルヴァーとの決着が付くまでは私は貴方達と闘わない。
それまで、貴方達の邪魔はしないようにするわ」

それが彼女なりの妥協なのだろう。
それでも譲歩してくれた事実に、シルクの表情が明るくなる。

「でも、手助けをするつもりは無いからそこは覚えておいて。
直接的な協力はしない事が条件で大目に見るわ……いいわね?」
「…………うん!」

満面の笑みで、シルクはうなずいた。
少しだけ、少しだけだけれど、一歩前進と言えるだろう。
穏やかな空気が流れる中、潮風だけが静かに吹いていた。



BACKTOPNEXT

inserted by FC2 system