第33話 見えない答え


「候補者たちが闘って女神の座を勝ち取る、それが定められた決まりです。
でも本当に、それは必要な事なんでしょうか?」

白羽の言葉を、蒼斗は黙って聞いていた。

「私達は、それが必ずしも必要な事とは思っていません。
女神を選ぶ為には、何かしら別の方法があるはずなんです」
「それは、確かに間違っていないと思うよ」
「それじゃあ……!」
「でも、この件に関して俺は口出しするつもりは無いんだ。
俺はあくまでも契約者の立場でしか無いし、どの道を進むのかは候補者であるアクアの意思を尊重するつもりだからね」

確固たる意志の込められた声に、白羽が黙り込む。

「だけど、君達と敵対するつもりも無いよ。
この闘いだって敵意のある対決では無いと思うし、協力出来るのならしていきたいとも思う。
その意見、思いきってアクアにぶつけてみたらどうかな?」
「でも、アクアさんが素直に応じてくれるとは思えなくて。
だから、蒼斗さんに口添えして貰えたらって思って」
「まあ、確かに彼女は頑固な所があるから」

苦笑して、蒼斗は言う。

「それで、君の言う協定って言うのは?」
「率直に言えば、協力です」
「協力? そうは言うけど、それじゃあ目的は果たせないんじゃ……」
「この場に居ないもうひとりの天使の話、ご存知ですか?」
「いや。アクアは他の天使の話を、あまりしたがらないから」

その返答に、白羽は神妙な顔をして言葉を紡ぐ。

「シルクから、もうひとりの天使の実力は相当な物だと聞いています。
普通に闘えば、恐らく無傷では済まないだろうって。
でも私達の目的は、傷付かず傷付けず平穏に事を進めることなんです。
その為にマゼンタさんに協力を要請しましたが、でもそれでも足りないと思います。
だから、アクアさんの力も借りたいんです」
「なるほど。まずは共通の敵を攻略する為……とでも言えばいいのかな」
「そういう事になります」
「でも、どうしてそんなに実力の差がある面子を選んだんだろうね?
普通に考えれば、彼女のひとり勝ちになる事は明白だろうし」

不意に声にされた疑問は、もっともでありながら最大の謎でもあった。
答えの出せない疑問。
その答えを知る者が居るとすれば、その選択をした天上の女神だけだろう。

「……それはたぶん、この場に居る誰もが答えを探してるんじゃないでしょうか」

静かに、白羽がつぶやいた。
蒼斗はうなずく。

「そうかも知れないね……取り敢えず言うだけ言ってみるよ。
彼女がどういう反応を返すのかは分からないけど、ね」
「ありがとうございます!」

瞳を輝かせて、白羽は言う。
伝えてくれるだけでも、充分にありがたい事だ。
恐らく直接話した所で、聞く耳を持ってくれるのかは怪しい。
しかし契約者として選ばれた蒼斗の言葉ならば、幾分かは受け止めてくれるかも知れない。
結果はどうであれ、こちらの言い分が伝わってくれれば良いのだ。
良い方向に転んでくれる事を、白羽はただ願っていた。



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