第30話 偶然の再会


太陽が、輝いている。
季節は夏、時期は既に夏休みに突入していた。
朱華は白羽の提案を受けて、海へとやって来ている。
もちろん、マゼンタやシルクも一緒だ。

「女神の闘いに私達は直接的に関係は無いって言うけどさ、やっぱり全員揃ったら巻き込まれると思うのよ。
だから、平和な今のうちに、ゆっくり遊んでおきたいじゃない?
だって、折角の夏休みだしねえ」

言って、白羽はウインクしてみせる。
契約を交わしてから数ヶ月が経つが、今までと変わらない毎日に状況を忘れそうになる。
マゼンタとシルクの間には提携契約が成立している。
しかし、既に契約を済ませているはずのアクアは、あの一度の来訪から姿を見せていない。
まだ全員が契約を交わしていないのだろうか?
なんにしても、白羽の言う事はもっともな事の様に思えた。
何もしなくていい、という話であるとは言え、実際に何もしなくていいとは思えない。
だからといって、何かが出来る訳でもないが。

「でも、どうして海?」

疑問に思って、朱華は問う。
夏休みに入る直前、突然提案されたのだ。
夏休みに入ったら、海へ遊びに行かないか、と。
断る理由も無かったので率直に頷いたのだが、何か理由があるのかと思っていたのだ。

「やっぱり、夏と言ったら海でしょ!」

返答は、至極完結だった。
どうやら理由など無く、単に遊び目的なのかも知れない。
今回は単に海に出かけただけでなく、一泊のおまけつき。
時間を気にせず遊べる寸法だ。

「そうだね、良い思い出つくろうよ!」
「オッケー、任せといて!!」

どうせなら思いっきり満喫してやるんだと、朱華は意気込んだ。
白羽もそのつもりのようで、普段から高めのテンションがより一層高くなっている。

「ふぅん、海ねえ……」

既にその姿を現してる広く青い海を眺めながら、マゼンタがぽつりと呟いた。
その横で、シルクは不思議な物を見るような目を向けている。

「もしかして、海って初めてなんですか?」
「そうねえ、初めてって言えば初めてかしら。
そういうモノが存在する事は知ってたんだけどね、天界には海なんてモノ、存在しないもの」
「そうか、天界って空にあるから……」
「ま、そういうこと。でも」

言ったマゼンタが不意に立ち止まったので、朱華も思わず歩みを止める。
シルクがびくりと肩を震わせて、マゼンタの後ろに隠れた。
突然の事に、白羽も首を傾げている。

「シルク? どうしたの」
「あれって……!」

マゼンタに倣って視線を向けた朱華は、絶句した。

明るいブルーの髪。
人知を超えた美貌。
その背中に羽は無いけれど――――。

「……アクア」

マゼンタがぽつりとつぶやく。
そこに居たのは、女神候補の天使、アクア・イーストウォーターその人だった。

「…………なんで?」

思いがけない再会に、朱華はただそれだけを呟いた。



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