第28話 結束


取り敢えず真実か否かは置いといて。
先刻のカミングアウトを機に少女がぽつりぽつりと語り出した話に、白羽は耳を傾けていた。
彼女の話を要約するとこうだ。
少女の名前はシルク・ウエストウインド。
女神と呼ばれる王の次期候補に選ばれた、四人のうちのひとりらしい。
彼女達は互いに闘い、勝者ひとりが次期女神の座に就く決まりになっている。
その為の契約者を探しており、それに白羽が選ばれた―――――と。

「それで、私は契約者になって、何をすれば良いの?」
「なにも……なにも、しなくて、いいの」
「何もしなくて良い、って? それで良いの?」

予想外の返答に、白羽は問いを重ねる。
シルクは何度も首を縦に振る。

「闘いは、契約者だけ。だから、なにもしなくて、いいの。でも……」
「でも?」

ふと漏れた言葉が気になり、白羽は言葉を繰り返した。
シルクはワンピースの裾をぎゅっと握り締め、絞り出すような声を出した。

「わたしは闘いなんて、したくないの。しちゃ駄目なの。他にも方法はあるはずなの……っ!」

その叫びが、白羽の胸を強く打った。
必死なまでの感情が、彼女の心を如実に表しているようで。
気付けば、その言葉が口を突いて出ていた。

「良いわ、契約者になってあげる」
「ほんとう……?」
「もちろん! 私はシルクを全力で応援するよ。ふたりで闘わなくても良い方法、探そう?」
「……うん!!」

その時、白羽は初めてシルクの笑顔を見た。
眩しいくらいに明るい、そして何よりも人を幸せにするような、そんな笑顔。

「あの、そ、それ、貸して」
「これ?」

白羽は手にしていた石を、シルクに手渡した。
この様子だと、これは彼女のものなのだろう。
黄金色に輝く石に、シルクはそっとキスをする。
すると、石と同じ様な――――いや、石よりも鮮やかな光が湧きだした。
それは世界を包むかの様に広がり、全てを黄金に染めた後でぱちんと弾けた。
シルクの手にあった筈の石は忽然と消え、代わりに小さな指輪が掌に載っている。
先刻の石に良く似た黄金色の石が、嵌め込まれている。

「あの、これ……契約の証、です。た、大切に、持ってて?」
「……凄い、ぴったりサイズ」

試しに指に通してみて、驚いた。
まさに白羽が身に付ける為に作った、と言わんばかりだ。

「あの……お、お名前、は?」
「ああ、そうそう。自己紹介がまだだったね。私は井上白羽。白羽、だよ」
「シラハ……?」
「そう、白羽。宜しくね」

差し出した手に、小さな手が重なる。
それはふたりの間に、確かな結束が生まれた瞬間だった。
それをきっかけに、シルクの唇が流暢な言の葉を紡ぎ始めた。
彼女とは思えない、確かな言葉の流れで。

「風を司りし天使、シルク・ウエストウインドが盟約によりて契約の儀を執り行わん。
契約者の名はシラハ――――彼の者に我が力の波を」

重ねた掌の間から、黄金色の光が溢れる。
それは白羽の身体を包み込むようにして広がっていき、そうして体内に吸い込まれるようにして消えた。
不思議な光景に、白羽は見入っていた。

「あの……これで終わり、です」

シルクの声に、白羽は我に返る。
契約が完了し、そうして浮かんだ疑問がひとつ。

「えーっと……これからシルクは、どうするの? その……家、とか」

見上げてくる視線に、白羽は全てを悟った。
偶然が重なった結果か、はたまた運命だったのか。
それは分からないけれど。
その出会いが彼女達の未来を動かした事は、間違い無い。



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