第27話 もうひとつの出会い


「シルクちゃんとの出会いって、どんなだったの?」

休戦協定が交わされた後、帰宅する白羽とシルクを送る為に朱華は家を出た。
その道すがら、朱華は何気なく浮かんだ疑問を口にした。

「うーん、そうだねえ……」

問われた白羽は、過去の記憶を思い出す様にして空を仰いだ。
横を歩いていたシルクが目を瞬かせて、同じ様に天を向いて目を瞬かせた。

「引っ越しの準備をね、してたんだ。転入の為の。そこでシルクと出会ったんだ」
「え……シルクちゃんと出会ってから引っ越したんじゃないんだ?」

朱華はきょとんと目を丸くする。
てっきり、他の候補者の位置を察知して近くに越して来たのだとばかり思っていたのだ。

「あ、やっぱりそう思った? 我ながら偶然の連続にビックリなんだけどねー。
ホント、タイミングが良かったと言うか偶然だったと言うか……もしかしたら、これを奇跡って言うのかもね」

言いながら、白羽は笑う。
その脳裏には、シルクとの出会いが鮮明に蘇っていた。





引っ越し用の荷物を運ぶ途中、ころんと小さな音がして、白羽は首を巡らせた。
何気なく視線を落とした先に見えたのは、黄金色に輝く石。

「何だろ、これ」

首を傾げつつ、それを拾い上げる。
土や砂まみれになったそれに息を吹きかけ、手で砂を払う。
日差しの光を弾いて、その石は宝石の如くきらりと輝いた。

「うわぁ……綺麗……」

思わずため息が漏れる美しさに、白羽はぽつりと呟いた。
と、服の裾を僅かに引っ張られるような感覚がして、白羽はふと首を傾げる。

「なに……?」

振り返った先、その光景を目の前にして、白羽は何度も瞬きをした。
目の前には小さな少女がひとり居て、潤んだ大きな瞳でこちらを見上げている。
迷子だろうかと、白羽は辺りを見まわすが誰も居ない。

「ええと、もしかして迷子?」

問い掛けてみると、少女はふるふると首を振る。
しかしそれ以上の事を話すような素振りは一向に見られない。

「困ったな……」

白羽は頭を掻きながら、目の前の少女を眺める。
年は十にも満たない頃だろうか、ぱっちりとした瞳が愛らしい。
髪はふわりと柔らかそうな巻き髪で、純白のワンピースを着込んだその背には、服と同じ真っ白な翼。
翼。
――――翼?

「つ、翼ぁ!?」

思わず発した大絶叫に、少女がびくりと身を竦ませる。
白羽は慌てて我に返り、周囲を見渡した。
幸いな事に、辺りに人の姿は見られない。
誰かに見られていようものなら、不審人物確定だ。

「その翼……って、やだなあ私。本物な訳無いじゃん」

言い聞かせるように呟いて、少女の背中を覗きこむ。
しかしその目に映ったのは、露わになった地肌から突出している翼だった。
それは、見間違えようも無く。

「ほ、本物……?」

少女の両肩に手を置いて、白羽は至極真剣に問う。
少女は小さく頷いて、肯定の意を表してみせる。
そうして少女の口から語られた単語は、驚くべきものだった。

「あ、あの……わたし、あの……て、天使…………で、す」

その言葉の持つ意味を理解するまでに、時間がかかった。
――――天使。
純白の羽をもった、神の使い。
少女は今、その天使であると言ったか?

「な、て、天使ぃ……!?」

再びの絶叫に怯えながらも、少女ははっきりと頷いたのだった。



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