第22話 来訪せし者 小さな肩が、震えていた。 今後訪れるであろう、大きな争いを前にして。 望まなくとも、それは近い将来やってくる。 「いやなの……わたしは、闘いなんてしたくないの……!」 これは本意ではないのだと。 意味の無い事なのだと、そう思う事すら間違っているかの様で。 怖くて、怖くて仕方が無い。 争いはいつだって、正しい事の判断さえ鈍らせていく。 「大丈夫よ。きっと、大丈夫だから……」 励ます様に、その小さな身体を抱いてやる。 縋るように、小さな手が服の裾をぎゅっと握る。 なだめるような、包み込むような優しさに、幼い少女は目蓋を閉じた。 そっと優しく、頭を撫でるその指には、黄金色の石がはめ込まれた指輪。 柔らかな髪が、するりと絡まっては解けていく。 嵐の到来は、遠くない。 + + + 「ねぇねぇ、転入生が来たんだって!」 どこからか湧いて出たその話題に、朱華も耳を澄ませた。 どうやら朱華のクラスとは別のようだが、そんな事は問題ではない。 転入生が来たという、常には無いイベントが重要なのだ。 周囲の噂では、その転入生は隣のクラスにやって来たらしく、女の子だという話。 いてもたってもいられなくなった生徒が押しかけて、隣のクラスの前はごった返しているらしい。 気にはなるが、どうせ後で見かけるだろう、なんていう考えの朱華は、特に気にする事もなかった。 * 放課後、ちょうど日直に当たっていた朱華は、周囲に遅れての帰宅になった。 雑用とも言えるような作業を手伝わされた為、友人達には先に帰ってもらう事にしていた。 以前、まったく逆の事があったな、なんて、ふと思い出す。 自分だけが暇で、ひとりで帰った日。 あの日に、マゼンタと出会ったのだ。 そして、その日の晩にもうひとりの候補者と契約者に会った。 気付けば、それから何事も無く1週間が過ぎようとしていた。 人がすっかり居なくなった寂しい教室で帰り支度をしていた時だった。 「えと、確か、朱華ちゃん……だよね?」 「あ、えと、ハイ」 突然の呼びかけに振り向けば、そこに居るのは見知らぬ少女。 同学年全員の顔を覚えているわけではないから、それも仕方の無いことだとは思う。 が、こちらが一切面識も無いというのに向こうから話しかけられるという構図が、 全くと言って良いほど分からない。 「あ、ごめん。私は井上白羽って言うんだ。隣のクラスに転入してきたんだけど」 「…………あ!」 無意識に、叫んでいた。 まさか噂の渦中に居る転入生に話しかけられるなんて、予想すら出来ない。 だいたい、どうして自分の名前を知っているんだろうか。 ――――まさか、私って有名人? そんな勘違いまで、思わずしてしまうくらいだ。 彼女は朱華の反応に軽く噴き出しながら、言った。 「さっきクラスの子に貴方の名前教えてもらって。 ちょっと話したい事があるんだけど、いいかな?」 「え……」 何だか、妙な予感がした。 |