第21話 希望ある選択


半ば打ち切るように終わった上空の会話に、地上の会話も収束に向かう。

「どうやら終わったみたいなんで、今日は帰りますね」

空に浮かぶ白い羽を眺め、蒼斗が言った。
分かりましたとうなずいて、朱華は帰っていく背中をぼんやりと見送る。
その隣にふわりと着地して、マゼンタが興味津々といった様子で視線を送る。

「ふぅん、アレがアクアの契約者」
「蒼斗さんって言うそうですよ、名前」

答えながら、もうひとりの天使の名がアクアである事を記憶の隅にメモする。
遠めにしか見えなかったから今度は近くで会ってみたいな、などと考えて、ふと我に返る。
これでも一応、敵対する間柄なのだ。
契約者自身はあくまでも力を貸すだけであって、直接闘いに関係する訳ではない。
だから、無駄に敵対する必要も無い気がするのだが……何だかしっくりこない。
まぁ敵視されるよりはのんびり見物というか、見守る方が何倍もいい。
そう結論付けて、朱華は家に戻る事にした。



「どんな話、してたんですか?」

部屋に戻ってきた朱華は、相変わらずベッドの上に寝そべるマゼンタに向かって問う。
マゼンタはさして興味の無い風に、生返事を返した。

「んー別に。ただの挨拶よ」
「えっと、アクアさんでしたっけ。どんな方なんです?」
「相変わらず頭の固い奴よ。まぁ真面目と言えば聞こえが良いけどね。
女神になる気が無い、っていうあたしの意見に、真っ向から敵意を燃やしてるし」
「そりゃ、候補者なのに興味が無いなんて言ったら当たり前ですよ」
「あんたまでそんなコト言うわけ?」
「辞退するとか出来なかったんですか?」
「あー辞退ね。そういやそんな手もあったっけ。忘れてた」
「忘れてた、って!」

あっけらかんとした返答に、朱華はただ呆然とするばかりだ。

「でもさ。これはね、希望ある選択だと思うわけよ」
「希望ある選択……?」
「そう。形だけに捕らわれない、新しい未来を築く事が出来る選択」
「……発想の転換みたいな感じですか?」
「うん、そうね。そんな感じ」

マゼンタは小さく微笑む。

「ま、結果がどうなるかは誰にも分からないわよ。お楽しみって所ね」
「そんな曖昧で良いんですか?」
「いいの。人生なんてそういうモンよ」

そうして、事態は少しずつ進んでいく。



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