第21話 希望ある選択 半ば打ち切るように終わった上空の会話に、地上の会話も収束に向かう。 「どうやら終わったみたいなんで、今日は帰りますね」 空に浮かぶ白い羽を眺め、蒼斗が言った。 分かりましたとうなずいて、朱華は帰っていく背中をぼんやりと見送る。 その隣にふわりと着地して、マゼンタが興味津々といった様子で視線を送る。 「ふぅん、アレがアクアの契約者」 「蒼斗さんって言うそうですよ、名前」 答えながら、もうひとりの天使の名がアクアである事を記憶の隅にメモする。 遠めにしか見えなかったから今度は近くで会ってみたいな、などと考えて、ふと我に返る。 これでも一応、敵対する間柄なのだ。 契約者自身はあくまでも力を貸すだけであって、直接闘いに関係する訳ではない。 だから、無駄に敵対する必要も無い気がするのだが……何だかしっくりこない。 まぁ敵視されるよりはのんびり見物というか、見守る方が何倍もいい。 そう結論付けて、朱華は家に戻る事にした。 * 「どんな話、してたんですか?」 部屋に戻ってきた朱華は、相変わらずベッドの上に寝そべるマゼンタに向かって問う。 マゼンタはさして興味の無い風に、生返事を返した。 「んー別に。ただの挨拶よ」 「えっと、アクアさんでしたっけ。どんな方なんです?」 「相変わらず頭の固い奴よ。まぁ真面目と言えば聞こえが良いけどね。 女神になる気が無い、っていうあたしの意見に、真っ向から敵意を燃やしてるし」 「そりゃ、候補者なのに興味が無いなんて言ったら当たり前ですよ」 「あんたまでそんなコト言うわけ?」 「辞退するとか出来なかったんですか?」 「あー辞退ね。そういやそんな手もあったっけ。忘れてた」 「忘れてた、って!」 あっけらかんとした返答に、朱華はただ呆然とするばかりだ。 「でもさ。これはね、希望ある選択だと思うわけよ」 「希望ある選択……?」 「そう。形だけに捕らわれない、新しい未来を築く事が出来る選択」 「……発想の転換みたいな感じですか?」 「うん、そうね。そんな感じ」 マゼンタは小さく微笑む。 「ま、結果がどうなるかは誰にも分からないわよ。お楽しみって所ね」 「そんな曖昧で良いんですか?」 「いいの。人生なんてそういうモンよ」 そうして、事態は少しずつ進んでいく。 |