第23話 接触


流れのままに承諾した朱華は、白羽と共に屋上に来ていた。
今となっては懐かしくすら思える場所だ。
あの幸せになる魔術の効果は、もう消えたのだろうか。
そしてその幸せは、結局のところ何だったのだろうか?
そう言えばここ数日、紫と顔を合わせていない事に気付く。
どうしたんだろう、と思ったが、今はそんな事を考えている場合ではなかった。

「あの、話って……?」

おそるおそる、朱華は訊く。

「うん、これなんだけど」

言って、白羽は服の中に隠していたリングを取り出す。
それは、黄金にも似た色の宝石が嵌めこまれている指輪。
今は鎖に通され、ペンダントの様にして身に着けている。
朱華は思わず、胸の辺りに手をやった。
自身も首から提げた赤い宝石のペンダントを思い出す。

「たぶん、これを見せれば分かってくれるんじゃないかと思うんだけど」
「え……っと、たぶん」

言葉としては曖昧に、けれど心の中では確信を持つ。

――――彼女も、契約者なのだ。

マゼンタの話では、確か女神候補者は全部で四人。
つまりは、彼女達と契約を交わす人間も四人居ると言う訳だ。
ひとりは朱華、もうひとりは西野蒼斗という青年。
そして残りのふたりのうちのひとりは、この少女。
こんなにも早く、他の候補者と出会う事になるとは思ってもいなかった。
他の女神候補者達は、決着をつけるべく他の候補者を探しているのだろうか。
ここまで受け身なのは、単にマゼンタが動こうとしないだけか。

「で、物は相談なんだけれど。朱華ちゃんの家、行っても良い?」
「え」

突然の申し出に、朱華は呆然とする。

「ごめん。幾ら何でも初めて会ってそれはマズイよね」
「あ、いや、そういうつもりじゃ」
「シルクが……あ、シルクって私の契約してる子なんだけど、そのシルクが朱華ちゃんの契約してる天使の、えっと……」
「マゼンタ」
「そう、そのマゼンタさんに会って話がしたいって」
「挨拶、ってこと?」

先日の出来事を思い出す。
マゼンタをライバルの如く敵視する候補者――――アクアの事を。
白羽の契約天使であるシルクも、同じなのだろうか。
彼女と同じく、挨拶という名の宣戦布告を行う為にやって来るのか。
けれど、気になる事がひとつ。
白羽はシルクの事を、子供を呼ぶ様に「子」という用語を使った。
それは、どういう事なのだろう?

「挨拶、って言うよりも相談、かなぁ」
「相談? 何で相談なんか」
「まぁ何て言うかな、シルクはちょっと特殊なのよ」
「特殊……」

何処となく気になる単語だ。
他にも気になる要素は沢山散りばめられている。
それに、会うだけならば大して問題無いだろう。

「うん、分かった」
「良かった、ありがとね朱華ちゃん!」

取り敢えず、その特殊な天使に会ってみたいし。
そんな簡単な動機で、出会いの場は確保されたのだった。



BACKTOPNEXT

inserted by FC2 system