第18話 因縁


朱華のベッドの上に横になって足をばたばたさせていたマゼンタが、ふと動作を止めた。
何気ない動作が妙に気になって、朱華は尋ねる。

「どうかしました?」
「…………来た」

何が、と言う前に、マゼンタがベッドから飛び降りた。
そのまま窓に駆け寄り、窓枠に足をかける。

「ちょ、ちょっと!」

ひらりと外に飛び出したマゼンタを追うように、朱華は窓に駆け寄る。
下を覗きこむが彼女の姿はなく、その代わりに人の姿を見つけた。

(もしかして今の、見られちゃった……!?)

時間はもう八時を過ぎた頃。
こんな時に家の前の通りを歩く人なんて滅多に居ないはずなのに。
――――運が悪い、悪すぎる。
呆然と眺めながらそんな事を考えていると、ふとその人物が頭を下げた。
何故、と思いつつも、反射的に朱華も頭を下げる。
その時、ひらりと舞った白い羽に気付く。

「あ、上か……」

どうも窓から飛び出せば下に落ちる、という考えを持ってしまう。
だがマゼンタはあれでも天使だ。
つい今までは邪魔だと隠していたが、真っ白な翼を持っているのだから。
朱華は視線を上げて――――言葉を失った。
マゼンタともう一人、水色の髪の女性の姿が、そこにはあった。
背中から生えた、真っ白な翼。
彼女も天使なのだと、すぐに合点がいった。
となると、そこに居る人は。

「契約者……!」

朱華は叫ぶように呟くと、自室を飛び出した。



夜の空で、ふたりの視線がぶつかる。

「…………久し振り、でもないかしら?」

水色の髪の天使――――アクアが、挑戦でも叩きつけるような口調で呟く。
マゼンタは不敵な笑みを浮かべたまま、何ともないように返答を返した。

「本当にね。ついこの間、顔をあわせたと思ったけれど」
「意外だったわ。貴方がこんなにも早く契約者を見つけたなんて」
「そっちこそ、随分と早いじゃない」
「私は、貴方とは違うもの。貴方のように気楽な考えで、ここにいる訳ではないわ」

そんな言われ方をするのは心外だ、とでも言うようにアクアは言う。
しかしそれこそ、マゼンタにしてみれば心外だ。
確かに女神になるつもりなど毛頭無いし、彼女から見れば気楽な構えに見えるのだろう。
だが、マゼンタにもそれなりの考えはある。
アクアの心構えに比べたらちっぽけなものかも知れないが、確かに持っているのだ。

「まぁいいわ。今日は挨拶に来ただけだから」

返答の無いマゼンタをどう捉えたのか、アクアはそう口にした。

「……この日がくるのを、どれだけ待っていたかしら。貴方と、こうして闘える日をね。
いつか、貴方とは決着を着けたいと思っていたのよ」

火を司るマゼンタと水を司るアクアの仲は、昔から良好とは言えないものだった。

――――火と水。

それは言わば、何においても因縁のような間柄なのだ。



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