第12話 縁―えにし―


悩んだ挙句にマゼンタはスカートを選択し、朱華の財布から1万5千円という額が消えた。
思った以上の高額だ。
頭を悩ませる朱華の横で、マゼンタは上機嫌。
何だか、悔しくなってきた。
その後、ふたりは激安が売りのショッピングセンターへ向かった。
予算をしっかり考慮して、大量生産の既製品をいくつか購入する。
これで満足してもらうしかない。

――――やっぱり、不利だ。

そう、思う。
マゼンタは服を買ってもらって、朱華はお金を失っていく。
不利というか、不公平だろう。
あまり考えているのも悲しいから、開き直る事にしようと、心に決めた。
服が詰まった袋を抱え、ふたりは帰り道を歩いていた。
服を買ってやった条件だとして、荷物はしっかり持たせている。

――――と。

「あら、朱華ちゃん」

不意にそんな声が聞こえて、朱華は足を止めた。
聞き覚えのある声。
振り返って、脳裏に浮かんだ人物と同一である事を確信した。

「会長……!」

そこに居たのは、品川紫だった。
すっかり私服に着替えた朱華とは違い、紫はまだ制服姿のままだ。
学校の帰りなのだろうか?

「どうしたんですか、会長。こんな所で」
「ちょっと下校途中のウインドウショッピング、って所かしら。朱華ちゃんもお買い物?」

朱華の手に抱えられる荷物を見て、紫が問う。
一目瞭然だ。

「ええ、まぁ。そんな所です」
「それにしてもいっぱい買ったのね。セールでもしてたの?」

疑問を投げかけながら、紫の視線が朱華の後方――――マゼンタに向く。
質問の答えを返そうと朱華が口を開く前に、次の質問が飛んできた。

「この方は、どなた? 朱華ちゃんのお友達?」
「えと、あの、それはっ」

予測していなかった事態に、朱華は慌てる。
どう答えようかと口を金魚みたいにパクパクさせていると、不意にマゼンタが口を開いた。

「あたしはこのコの遠い親戚」
「なるほど、親戚」
「そ、そうなんですっ!」

マゼンタは、助け舟を出してくれたのだろうか。
そんな事を考えつつ、ここぞとばかりに話に乗る。

「か、彼女は、ずっと海外で暮らしてた親戚なんですッ。
それで、すっごく久し振りに日本に来て、それで私が町を案内してて」
「そうなの。ご苦労様」

疑うような素振りも見せず、紫は納得したようだった。
視線をマゼンタに再び向けて、小さく笑う。

「初めまして。あたしは品川紫。貴方のお名前は?」
「マゼンタ・サウスファイア」
「マゼンタさんね。これも何かの縁でしょう、どうぞ宜しくね」
「……ええ、宜しく」

軽い握手が交わされる。
それを、朱華はぼーっと眺めていた。

「また、新しい縁に出会えたわ」

交わしていた掌が解かれると、ぽつりと紫が呟いた。
朱華は、聞き慣れない言葉に首をかしげる。

「えにし……?」
「そう、ご縁の縁と書いて、エニシと読むの。同じ意味よ、人と人との繋がりの事ね。
人の人生は、他者との縁で成り立っているから、縁は必要不可欠なの。
誰かとの小さな関わりが、後になって大きな意味を持ってくる事って、あるでしょう?」
「……確かに」
「だからね、朱華ちゃんも人との出会いを大切にするといいわよ」
「なるほど」

朱華は素直に納得する。
人との出会いが未来を変えるとすれば、後の手助けとなるのなら、
マゼンタとの出会いも無意味ではないという事だろうか。

「そろそろ帰らなくちゃ。じゃ、朱華ちゃんまた学校で会いましょう」
「はい。お気をつけて」

ひらひらと手を振りながら、紫は去っていった。
朱華とそんなに変わらない小さめの姿が、消えていく。

「縁、かぁ……」

言葉の持つ不思議な響きに、朱華はぽつりとその単語を呟くのだった。



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