第11話 おかいものパニック


「いらっしゃいませー」

品の良い笑顔に出迎えられて、朱華は顔を引きつらせた。
かなり場違いな気がする。
一般の女子高生が気軽に立ち寄るような、カジュアルな店とは違う。
だからといって、セレブ御用達とかいう豪華な場所では無いけれど。
先に店内へと入っていたマゼンタを探す。
すると彼女は、物珍しそうに店内のものを物色している。
その様子からすると、異世界には、きっとこんな店は無いのだろう。
とにかく、誤魔化してでもなんでも此処からでなければ。
そう思って、朱華がマゼンタに近づこうとした時。

「何かお探しですか?」

女性店員がにっこり営業スマイルで、マゼンタに話しかけている。

――――やばい。

直感的に、そう思った。
マゼンタの事だから、遠慮なくあれだこれだとか言うに決まってる。
そうしたら、それ全部買い取る事になるのだ。
それだけは避けたい。絶対に!
朱華はマゼンタのもとへ急いだ。

「服が欲しいのよ。もちろん、あたしに似合う奴ね」
「お客様でしたら、何でもお似合いになられますよ」
「まぁ、そうだと思うけどねー♪」

――――なんか言ってるー!!

心の中で絶叫しながら、朱華はマゼンタに駆け寄る。

「何勝手に話進めちゃってるんですか!」
「あら、あたしの服だもの。別にいいじゃない?」
「お金出すのは私なんですよ!」

そんなやりとりを見ながら、店員が苦笑している。
それに気付いて、朱華はハッと口をつぐんだ。
何とかするのに必死で、周囲の目なんて気にしてなかった。
思わず大声で叫んでしまって、店内に会話が筒抜けだ。

(わー恥ずかしー……!!)

何だかいたたまれなくなったが、このまま逃げ出るのもどうかと思う。
仕方なく、朱華は小さな声でマゼンタに言った。

「ひとつだけ、ひとつだけなら買うから好きなの選んで下さい」
「ひとつー? ケチねえ、シュカって」
「いいから、早く! じゃないと、買わない」
「仕方ないわね……」

不満そうにしながらも、マゼンタは再びあちこち物色を始める。

――――お財布の中身が足りますように。

彼女の手に取る服に視線を向けながら、朱華はひっそりとそう願った。
そう考えつつ、ぼんやりと今の状況を思い起こしてみる。
それにしても、下校の時から慌しく時間が過ぎたように思う。
石を拾って、マゼンタが出てきて、そして今は服屋にいる。
そしてもうじき、それなりのお金が財布から飛んでいくのだ。
正直まだ、頭の整理は完全についていない。
あの、幸せになる魔術とやらの効果はもう切れてしまったのだろうか?
反動のように災難続きだと、朱華はただ溜息をつくのだった。



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