第8話 選択


与えられた選択肢は、ふたつ。
選ばなければならないのは、ひとつ。
その選択次第で、これからの未来が変わってしまうと言っても過言ではない。
慎重に、選ばなければならない。
慎重に、なるべきなのだ。
けれど……。
それを許さないほどの即決を求められる。
どうしたらいいのだろう。
どうしたら……。

「さぁ、時間よ、シュカ。選んで」
「だ、だって、いきなりそんな事言われたって」
「何言ってるのよ。時間なんて、充分にあったじゃない?」
「いくらなんでも結論が早すぎます! それに、協力って言ったって何すればいいのか分からないし……」
「あら、そんな事悩んでたわけ?」

マゼンタは呆れるようにそう言って、ふと笑う。

「簡単よ。あんたはあたしと契約だけしてくれればいいの。
別に闘いに手を貸せとは言わないし、何もしなくても自然と力は借りられるし。あたしの力の源になってくれればいいのよ」
「力の源……って」
「あ、言っとくけれど体力を奪うなんて事はないから安心して? まぁ、それは言ってみれば精神力みたいなものだからさ」
「……精神力」
「そ。どちらにせよ、シュカ自身に大きな負担がかかる事はそうそう無いから」
「なら、良いんですけど……」

ぽつりと呟いたその言葉を、マゼンタは聞き逃さなかった。

「良い、って今、言ったわよね?」
「え、いや、今のは」

失言、だった。
思わず口にしてしまった一言が、こんなにも悔やまれる。
口は災いの元、と言うが、確かにその通りだ。
今の彼女には、どんな言い訳すらも通用しないだろう。

「さ、シュカの答えは? シュカの口から言ってちょうだい?」

そうしてまた、先を促す。
ふたりの――――マゼンタとライムの視線が、朱華を射抜く。
期待するような、そんな視線。

「……分かりました」

朱華は諦めモードで頷いた。
これ以上の反抗は無意味だと、頭のどこかでは理解していたのだ。
初めから、こうなる運命にあったのかも知れない。

「これで契約成立ね♪」

マゼンタは、満足そうに笑った。
朱華は、どうにも負けた気がするのだった。



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