第7話 彼女の使命


「そもそも女神について話してないわよね。続きはそこからにしましょ」

マゼンタはそう切り出して、説明を始める。

「あたし達の住む世界を統一しているのが、女神なの。
ここで言う所の王様みたいなものよ。そう言えば分かりやすいんじゃないかしら」
「まぁ、確かに……」
「あたし達は長命だし、女神の座は半永久的に変動が無いのが普通なんだけどね。
稀に例外もあるのよ。それは女神自身の意志で、譲位すること。そして今回、女神が譲位を決めたの」
「どうして?」
「さぁ。それは知らされてないから分からないわね。
探るのは無粋だし、時が来ればいつかは分かるんじゃないかって皆思ってるのよ」

そう言うマゼンタの表情は、その問題をさほど気にしていないようだった。

「女神は後継となる者を指名して、了承を得た後に正式に譲るのが普通なんだけど、
今回はどういう訳か、複数を指名したの。そんな事をしたのは、今までに無かったみたい。
皆驚いてたわ。でも、女神の言は絶対だから、誰も逆らえなかった」

何処か楽しそうに、マゼンタは言う。

「次期女神の候補者達は、全部で四人指名された。
その全員で闘って、そして勝った者には女神の座が譲られるっていう訳よ。
でもただ闘うんじゃなくて、契約者を探せだなんて言い出すし……。
変わった人だとは思ってたけど、まさかここまでだとは思わなかったわよ」

呆れたようにそう締めくくって、マゼンタは朱華に視線を動かす。

「ま、そういうわけよ。分かった?」
「……まぁ、一応は」
「全部理解しようとしなくてもいいわ。あたしにだって、不透明な箇所があるんだもの。
過ごしていくうちに分かる事だってあるわよ」
「そういうもん……ですか?」
「ええ、そういうもんよ」

何ともアバウトな締めくくり。
さっきから聞いていれば、しっかりしているようで何処か適当。
そんなのに従って、彼女らは動いていると言うのだろうか。
そして腑に落ちない事がひとつ――――。

「ひとつ、思う事があるんですけど」
「なぁに?」
「協力してそっちには利益があるんでしょうけど、でも私には得なんてないんですよ?」

こんな事を言うのは何だが、それは確かにその通りだと思う。
マゼンタは契約者を得て協力を得、何も不満は無いだろう。
けれど朱華は力を貸して協力する、ただそれだけ。
褒美をくれだとか言ってねだるわけではないが、何だか納得はいかない。
不満を読み取ったのだろうか、マゼンタがにやりと笑う。

「そんな事無いわよ」
「え?」
「言い忘れてたけれどね、ちゃんと報酬はあるわよ。
こっちが巻き込んでるも同然なんだから、それくらいして当たり前でしょう」

さも自慢げに、マゼンタは胸を張った。

――――忘れてたくせに。

そんな言葉を飲み込んで、朱華は次の言葉を待つ。

「ひとつだけ、願いを叶えてあげるわ。ただし、あたしが女神になれたら、だけどね。
力を貸して勝たせる事が条件になっちゃってるから」
「でもさっき、女神になる気は無い、って言ったのに!」
「そんなのは規約に通用しないのよね、残念だけど」

それじゃあ報酬が無いも同然じゃないか。
何なのだろう、この展開は。

「……さ、選択の時よ。どうする? シュカ」

決めかねている朱華をよそに、マゼンタは自信あり気に微笑を浮かべるのだった。



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