第4話 女神候補者マゼンタ 「綺麗……」 太陽の光を受けてきらきらと輝く石を眺めて、朱華はぽつりと漏らした。 校門の前で見つけた、宝石の様な石。 誰かの落し物とは思ったものの、しかし良く考えてみると生徒でこんな物を持つ人物が居るのだろうか、と疑問が浮かぶ。 どうしようか迷ったが、その石が放つ不可思議な「何か」に導かれる様に、朱華はそれを家まで持ち帰っていた。 もし誰かの落し物だったらと思うと罪悪感は浮かぶが、それを越えるほどの力に惹かれていた。 光に当たって輝く様は本当に美しく、今までに見た事も無いような不思議な輝き方をしていた。 知る限りの宝石には無い、美しさ。 どんなダイヤモンドだって、形の似通ったルビーだって、 これほどまでの美しさは無いだろう。 掌の上の小さな石は、不思議な程に朱華を魅了していた。 さっきから、こうして石ばかり眺めている自分自身を疑問に思ったが、 何故だか引き寄せられる様に、意識がついつい向いてしまう。 それはまるで、石に魅力の魔法でも掛けられているかの様だった。 存分に日光を浴びた石が、一層眩しくキラリと輝く。 その眩しさは目を焼いて、朱華は思わず目を覆った。 同時に、手にしていた石が、異常な熱を発する。 「――――熱……ッ!」 反射的に石を手放す。 放り出された石は、ふわりと宙に舞って床に転がる。 目を覆っていた手を離し、足元に落ちている石に視線を落とす。 そっとしゃがみ込んで石に手を伸ばした。 指先で、ちょんちょんと突付いてみる。 「……熱く、ない?」 指先で石を摘みあげる。 先程の熱は何処へやら、ひんやりと冷たい感触が肌に触れた。 今のは錯覚か何かだったのだろうか……? 首を捻りつつ、朱華は立ち上がった。 ――――と、その時。 「ねえ、ちょっと」 不意に何処からか声がして、朱華はビクリと肩を震わせた。 今は自室にひとりきりのハズだが……。 恐る恐る視線を動かし、背後を見遣る。 そして。 「――――ッ!!」 「気付くの遅すぎ」 そこには、人が居た。 いや、人、と言うべきなのかどうか。 ウエーブの掛かった桃色の髪の、女性。 その背には、真っ白な羽が広がっている。 童話なんかで見かける様な、そんな姿。 現実には存在しないはずの容貌。 「て、天使……? まさか、そんな」 「ご名答。そのまさか、よ。それもこの世界に残った昔話のお陰ね」 満足そうに言って、自称天使は満足そうに頷く。 「自己紹介がまだだったわね。あたしはマゼンタ、マゼンタ・サウスファイア。女神候補の天使のひとりよ」 「女神、候補……? 天使……?」 「そう。貴方、名前は?」 「児島……朱華」 「シュカ、ね。なるほど、分かった」 混乱する朱華をよそに、天使と名乗った女性――マゼンタは、どんどん話を進めていく。 「さっきも言った様に、あたしは女神候補なの。 だから、候補規定に従って契約を交わさなきゃならない訳よ。 それはあたしの契約者を選ぶ為の物なんだけど……どうやらあんたを選んだみたいね。ま、これも何かの縁でしょ」 長々と、彼女は言葉を連ねていく。朱華は混乱してきた。 「え? え?」 あまりのハイスピードについていけず、朱華は待ったをかける。 「え、ちょ、ちょっと待って、状況が分からない!」 「……そりゃそうだわ。仕方ない、説明してあげるからよーく聞きなさい」 こうして、朱華は天使とやらの高尚な説明を拝聴する事となったのだった。 |