第39話 ハジマリ


分厚い紙の束が、ばさりと音を立てて机に置かれた。
それと同時に、長い溜息が吐かれる。
豪奢な椅子の背もたれに小さな体を預けて、幼い顔立ちの少女は天を仰いだ。
――――と。

「リスカ様……!」

慌しい足音と共に、叫ぶ声があった。
リスカと呼ばれた少女は、その声を探る様に視線を向けた。
視線の先で、長い髪を高く結った女性が急ぎ足でこちらへ向かってくるのが見える。
その背後からは、ひとりの男性が後を追う様に続く。
そうして間近まで辿り着くと、彼女は口を開いた。

「リスカ様。全ての候補者達が、契約を交わしたようです」
「……そうか。思っていたよりも早かったな」

幼さの残る雰囲気や声からは想像もつかない、断定的な口調。
しかしそれが妙に似合ってもいる、不思議な空気を纏った少女。
彼女こそが天界を統べる、女神と呼ばれる存在なのだ。

「いかが致しましょうか」
「どうもしないさ。あとは彼女達に任せる、ただそれだけの事だ」
「……本当に、この様な方法で宜しいのですか?」
「コーラル!」

咎めるように、隣に佇む青年が名を呼ぶ。
コーラルは反射的に口を閉じ、窺うような視線を彼に向ける。
その様子を見ていた女神リスカは、穏やかに笑う。

「この件は、通例を無視して独断で行った事だからな、私にも先は見えん」
「リスカ様……」
「だがな、グレイ、コーラル。ふたりとも心配する必要は無いよ。
彼女達の事ならば、恐らく大丈夫だ。何とか上手くやってくれるだろう。
どんな未来を掴み取るのか、見せて貰おうではないか」

 言って、リスカはかすかに微笑む。
 ――――これが本当の、始まり。



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