第25話 異端と呼ばれた者


「異端……? この子が?」

目をぱちりと瞬かせる朱華に、マゼンタは大きく頷いた。

「そう。シルクは女神候補者の中でも異質な存在だった。
その理由はただひとつ――――他の候補者達との闘いを拒否したから」
「拒否……。そんな事、出来るんですか?」
「答えは難しい所ね。まぁ、意志を主張する事は自由よ。主張するだけなら、ね」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味。肯定も拒否も、自分の考えをぶつける事なら誰にも出来る。
けれどね、周りがそれを許さないってワケ」

鬱陶しそうに、マゼンタは長い髪を払った。

「辞退する事も、本当は認められてる。けれど、誰ひとりとして辞退する事は無かった。
あたし達は辞退しなかったんじゃない、出来なかったからよ。空気がそれを許さなかった。
もし拒否すれば、周囲は女神からの命を自らの都合で撥ねるとは何事だ、って言う筈よ。
そんな有り難い事を拒否するなんて、何を考えているんだ、ってね」
「それって強制と同じじゃないですか」
「そう。結果的にはそうなるってわけ。だからあたしも面倒だけど、頷いたわ。
ここで拒否して周囲と一悶着起こすより、請けた方がまだマシだって判断したのよ。けどね」

言って、マゼンタはシルクに視線を向けた。
シルクはびくりと肩を震わせて、白羽に隠れる。

「この子は一度首を振ったの。自分には無理だ、ってね。
皆が驚いたわよ、この子がそんな真似をするなんて誰も思ってなかったから」
「……確かに」

今目の前にいる彼女が周囲に反論をするなど、朱華ですら想像がつかない。
しかしそれは恐らく、事実なのだろう。

「この子は平穏主義でね、争う事が嫌いなの。闘う事を望んでいないのよ。
そんな子に女神の座を競えだなんて、酷な話でしょう?」
「女神は、それを知らなかったんですか?」
「知ってたわよ。周知の事実ですもの」
「じゃあ、どうしてそんな事言ったんですか?」
「そんなの女神にしか分からないわよ。あの人は変わってるけど、馬鹿じゃない。
あたしとしては、あの人なりに考えの事があってだとは思ってる」
「……女神の事、信頼してるんですね」
「まぁね」

答えるマゼンタが浮かべた笑みは、照れ隠しのようにも見えた。
初めて受けた説明の時も、マゼンタは女神の言を尊重していたように思う。
だからこそマゼンタは、シルクへの対応が優しいのだろう。
マゼンタは、白羽に目を向けた。

「それであんたは……ええと」
「白羽、です」
「そう、シラハ。あんたはシルクの意志を聞いて、その上で協力する事に決めたんでしょ?」
「ええ。シルクや貴方達が置かれている状況がどんな物なのか、私には分からない。
けれど無駄な闘いをすべきでは無いというシルクの心は、理解しているつもりです。
だから、私は自分の出来る限りの力でこの子を守ります」
「あたしも進んで争うつもりは無いの。あたしの基本的な考えは、シルクと大して変わらないしね。
だからあたし達の間はひとまず休戦という事で良いと思うのよ」
「休戦、ですか」
「そう。争いを拒否したい二人が戦ってどうするのよ。無意味じゃない」

言ってから、マゼンタはふわりと微笑む。

「あたしはあんたに力を貸すわ。だからあんたも、あたしに力を貸して。
そしてあんたの考えを今、全部打ち明けちゃいなさい。皆がちゃんと、あんたの心を理解する為に」

シルクは小さく頷くと、ぽつりと言葉を漏らし始めた。



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